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『人質の経済学』 [☆☆]

・グローバル化した世界では、ここ25年ほどの間に誤った安心感が広まり、先進国の無邪気な若者が「グローバル・ビレッジ」の隅々まで出かけて行っては現地の状況を伝える記事を書いたり、内戦で逃げ場を失った人々や無政府状態になった地域で孤立する人々に支援の手を差し伸べたりしている。

・マリ北部の家族は子供を引き渡した時点で1人につき600ドルを受け取り、その子供が戦闘員として活動する間は月々400ドルの給料を受け取るという。

・一般的に言って、政府が関与すると交渉は滞り、手詰まりになりやすい。

・「様子見」は、交渉で一番やってはいけないことの一つだ。

・テロリズムとは、戦争を目的とする犯罪である。

・タバコやコカインといった密輸品に当てはまることは人質にも当てはまる。大切な商品に傷をつけるなどということは、とんでもないことだ。

・誘拐による資金調達には、このビジネスが盛んになると人質の供給が突然止まってしまうという致命的な欠点がある。

・後知恵ではあるが、ソマリアを失敗国家にしたのはまさに大失敗だった。冷戦に勝ったところで、地球上の地理は変わらない。それどころか、ソマリアの戦略的地位は格段に高まった。というのも、グローバリゼーションによって国際貿易が一段と活発化すると、ソマリア沖を通過する船の数も飛躍的に増えたからである。

・世界に散らばるソマリア出身者は、北米にいようと北欧にいようと海賊ビジネスに様々な形で出資し、受け取った金はペルシャ湾岸とのコネクションを活用して洗浄している。

・ソマリアの海賊は東アフリカからペルシャ湾岸の富裕国を目指す移民の密入国斡旋に商売替えしたのである。

・アサド政権は裕福な市民を拉致し、反体制側は外国人を狙う。反政府組織が「アラブの春」が生んだ「自由のための戦士」というのはメディアの思い込みだ。彼らに必要なのは「食料と武器を買う金」であり、そのための身代金なのだ。

・シリア内戦の混沌の中で、欧米メディアは、ジャーナリストを誘拐するのは親アサド派しかいない、と信じ込むようになった。これは実に無知な思い込みと言わざるを得ない。

・ジャーナリストたちは、信じがたいことだが、仲間が反政府組織に警護してもらっている最中に誘拐されているにもかかわらず、相変わらず彼らを信用し、命を預けていた。

・拉致されたジャーナリストやカメラマンの言い分を聞いていると、彼らはみなヘミングウェイ・シンドロームに冒されているのではないかと思えてくる。戦争特派員は反乱軍を支援し、彼らに命を預ける、なぜなら彼らは同志だから……。だが言うまでもなく、これはまったくの幻想だ。

・スペイン内戦を戦場からレポートしたヘミングウェイとは異なり、シリアを報道するジャーナリストは尊敬されない。彼らは潤沢な身代金と交換できる商品に過ぎないのである。

・欧米人の人質は頻繁に売買される。盗まれることもある。何と言っても非常に高価だからね。

・一番狙われやすいのは、戦闘地域や、失敗国家や、とにかく世界のあちこちにある危険地帯にのこのこやって来る欧米の若者だ。

・彼らは間違った知識を植えつけられていることが多い。戦争特派員や人道支援活動家のように危険が大きく高度な知識を要する職業に、紛争地域のど真ん中に行くだけで就けると思っているらしい。当然ながら、こうした手合いは簡単に誘拐される。

・ヨーロッパの政府は、ときに地元経済を変えてしまうほどの巨額な金を払う。マリ北部の誘拐事件で、イタリア人やスペイン人の人道支援活動家に数百万ユーロが支払われて以来、あの地域ではユーロが流通するようになった。

・紛争のできるだけ近くにいることが人道支援活動家やジャーナリストになる近道だと信じている。だがそれは間違いだ。誰も彼らのような人間を雇いたいとは思わない。彼らには何のスキルもないからだ。

・冷戦終結後のほうが世界が危険になったことは紛れもない事実である。それを知らない若者が、親や友人や国家を否定して自分探しの旅に出る。

・欧米人の大半は、英雄的に行動したからではなく、自分が犯しているリスクに無知だったために誘拐されている。

・映画の主人公になったみたいに感じることがあるんだ。俺は絶対に死なない、とね。だが自分は無敵だなどと感じるからこそ、誘拐されるのである。

・人質になった時点では「ジャーナリスト」と報道される彼らの記事が主要紙の紙面を飾ったことは一度もなく、したがって先進国の市民に感動を届けたことは一度もない。

・現場から迫真のレポートをしたところで、24時間流れ続けているニュースのほんの一瞬にしかなるまい。そのうえ天災も戦争も、現在の世界ではのべつ起きている。すっかり慣れっこになった人々は、わざわざ仕事の手を止めてニュースに見入るようなことはしない。渾身のスクープなどというものは、いまや過去の遺物なのである。

・誘拐、交渉、身代金支払いをすべて秘密のベールで覆い隠しておけば、筋書きはいかようにもでっち上げられる。言ってみれば、誘拐は空っぽの箱のようなもので、メディアはそこに好きなようにストーリーを詰め込む。

・君が自分で決めた任務に関する限り、最適の人材は君だ。

・大手メディアでさえ、記事1本に200ドル程度しか払わない。結局、大手メディアは他人の善意に依存している。というよりも、安上がりな人間に依存している。

・イスラム国が出現する1か月前まで、フリーランサーの書くシリア内戦についての記事にイスラム国に言及したものは一つもなかった。このことは、彼らの情報分析能力の低さを雄弁に物語っている。

・物事の背景や歴史的経緯にも無知であることが多い。その結果、彼らの書く記事は断片的になりがちで、スナップショットのように悲劇の1コマを切り取ったものになりやすい。

・これは、プロパガンダの戦争だ。この戦争に勝つのは、激しく攻撃する側ではないし、高価な最新兵器を持っている側でもなく、勇敢に戦う側でもない。できるだけ多くの人を自分の側につけることのできるほうが勝つ。

・湯川と後藤は、安倍首相の「イスラム国がもたらす脅威を少しでも食い止め」「イスラム国と戦う周辺各国に総額で2億ドル程度の支援をお約束します」という発言を契機に、身代金目当ての人質から外交戦略の駒に転換されたと言えるだろう。

・斡旋業者は、EU域内で国境管理や難民政策が一致していないことにもつけ込んでいる。つまりEUとしての共通外交政策が存在しないため、EUを一つのものとして捉えたときに政治が機能していない。こういうところでは、小粒の犯罪組織が暗躍する余地が出てくる。

・私たちが世話をする難民の大半は、ヨーロッパを巨大なショッピングモールだと考えている。国にいたときにテレビで見て憧れていた品物を欲しがるし、故郷にいる友達に見せびらかしたがる。彼らのフェイスブックには、そうした写真がたくさん投稿されている。

・ヨーロッパの納税者は、難民たちがヨーロッパの海岸にたどり着いたときから、在留許可を得て就労できるようになるまでのすべての費用を負担することになる。このプロセスには数年かかることもある。したがって移民や難民のニーズを満たすことは、巨大産業を形成しうるのであり、実際にヨーロッパの起業家にとって新しいチャンスとなっている。

・移民や難民は、古い寄宿学校や病院、営業を停止した僻地のホテルなど、使われなくなった建物や老朽化した施設をあてがわれることが多い。目端の利く経営者は、そういった物件を安く買い取って難民キャンプに改装する。このビジネスモデルは、いまやヨーロッパ全土に見受けられる。

・難民事業について調べれば調べるほど、難民が商品と化していると感じざるを得ない。さまざまな組織にとって、彼らは収入減となっている(広報官や公式カメラマンを雇う余裕まである)。



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